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インドの街角でチャイを飲んだことがある方なら、あの小さなティーカップを覚えていることでしょう。高さ7センチ、直径5センチ程度の素焼きの器のことです。名前を「クリ」と言います。 クリは、飲んだらその場で地面にたたきつけて捨てられてしまう、使い捨てのティーカップです。地面に落とすと、クリは頑丈に作られているわけではないので、コツンと渇いた音がして、簡単に欠けてしまいます。 なんでも、使いまわしができないように、つまりクリ職人の仕事を減らさないように、使い終わったら必ず壊すのが決まりになっているのだそうです。 クリは地面に捨てられて、人や牛の足に踏まれているうちに、再び土に還っていきます。環境問題が深刻化している現在、そんな使い捨てが許されていいのか‥‥という心配はあまりないようです。 『カルカッタのチャイ屋さん』(堀江敏樹著・南船北馬舎)によると、クリを作る職人さんたちは、カーストの一種なのだそうです。インドはカーストの国とは聞いていたけれど、クリ作りのカーストまであるとは驚きました。 クリを作る工程は、
ちなみに卸値は、0.15ルピー程度。チャイが一杯1ルピーほどなので、そんなものでしょう。 前回、9年前に初めてインドを旅したときは、使い捨てのティーカップといったらクリしかなかったのですが、去年、再訪したらなんとプラスチックの容器を見かけました。大きさはクリより一回り大きいだけなので、クリをイメージして作られているのは明らかです。 街角に打ち捨てられているクリを見ても「いずれ雨で溶けて、ガンジスを下って海に辿りつくのだなぁ」と思うだけですが、プラスチック製のクリが転がっているのは、純粋に汚いだけのような気がしました。 それにインドでのチャイの楽しみは、道端の長椅子に座って、店の人と片言の英語で交流しつつ、グラスやクリでのんびりチャイを飲むことですが、それがプラスチックの器だったら趣が削(そ)がれること甚だしいです。紙コップでワインを飲むようなもんです。 街角ではそうでもありませんが、列車の中で売り歩くチャイ屋さんは、プラスチック製クリを使う率が高いみたいでした。 もしかしたら、大量生産のプラスチックの方が単価が安いのかもしれません。しかし、単純に経済原則だけであのクリがなくなってしまうとしたら、なんとも残念なことです。 * * 僕がカルカッタ?ダージリン間の夜行列車に乗っているとき、夜中に目がさめてふと窓の外を見ると、田んぼに無数の蛍がいました。列車が何時間走ってもずっとその光景は続いていました。 この話をすると、くもりぞらさんは「それは、きっとインド人のおじさんがタバコを吸っていたんだよ」と言いますが、そんなことはありません。大体、なんで真夜中に田んぼの中でタバコを吸わなくちゃならないんですか。 それにしても、美しくも幻想的な光景でした。先日、映画「グリーンマイル」を観ていたら蛍が光っていたので、あのときのことを思い出しました。(山内) |
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