コラム6
 
シルバーチップの意義は?

先日、あるお客さんからシルバーチップについて質問をいただきました。今回のコラムは、そのご質問への回答を紹介します。

 >「シルバーチップ」という幻の紅茶について
 >なのですが。非常に希少価値が高く、なか
 >なか手に入らないものだと聞いています。
 >ずっと以前に一度、友人宅で一杯だけごち
 >そうになったことがあります。その友人もど
 >ういうルートからかわかりませんが、偶然手
 >に入ったと言っていました。本当に入手は
 >困難でしょうか。入手できるなら、欲しいな
 >と思うのですが・・・。でも、きっとすごくいい
 >お値段がつくんでしょうね。

こんにちは。メールありがとうございます。

シルバーチップに関しては、チップだけの純度100%のものも販売されているようですが、入手困難なので、値段はかなり高いようです。

また通常の、茶葉の中にシルバーチップが混じっているものは、特に珍しくはありません。当店のセカンドフラッシュにも、チップ入りがあります。確かナムリンとプッシンビンです。

こちらも値段は、いくらか高く設定されていることが多いみたいです。当店では特に、チップ入りかどうかを差別化していないので、値段は他のセカンドフラッシュのものとあまり変わりありません。その理由を以下にご説明します。

茶葉を摘むときには、一芯ニ葉(一本の芯と二枚の葉)を摘みます。二葉の先に伸びている芽をシルバーチップと呼んでいます。

これに関しては、いくつか意見があるようですが、磯淵猛さんという、「紅茶研究の第一人者」(集英社文庫『紅茶 おしくなる話』のプロフィールより)で、紅茶関係の本をたくさん出している有名な方が『金の芽〜インド紅茶紀行〜』という本の中に、こんなことを書いています。

ダージリンのグームティー茶園という茶園を磯淵さんが訪れたときに、マネージャーさんにシルバーチップについて尋ねます。

「味、香り、水色にどのような影響が出てくるのだろうか、そして、人はなぜこのチップにこだわり、まるで金、銀、宝石かのように尊ぶのか」

それに対してマネージャーさんが答えます。

「実はチップが入っていてもいなくても、味、香り、水色にあまり影響はないのですよ」「ただ、強いていえば、直接感じる渋みや香りの他に、もう一つうっとりするような優しさを作る、それがチップの役目です」

また、見た目に芽は白っぽいのに、なぜ Tippy Golden FloweryOrange Pekoe(略してTGFOP)つまりゴールデンチップと呼ぶことがあるのかというと、単にシルバーよりはゴールドの方が豪華だからだそうです。景気がいい響きにしたいということでしょうか。

「うっとりするような優しさ」というのは、一体どういうことなのか、 わかりませんが、結局のところ、チップが紅茶に与える影響は、茶葉の見た目の美しさと珍しさ、そして「これが入っていると一層おいしい」と思わせる心理的効果以外にはないようです。

もっとはっきり言ってしまえば、チップが入っていてもいなくても味にはあまり影響はないと言ってもいいみたいです。

僕はこれを読んで二度軽いショックを受けました。一つは、どうやら紅茶の味にチップ(芽)はあまり意味がないらしいこと、もう一つは日本の紅茶界の権威とされる人が、チップに関してあやふやな知識しか持っていなかったことです。

そもそもよく知らないから「どんな影響があるのか」と生産者に直接訊いているわけですから。

今の日本では、シルバー(ゴールド)チップスの意味が曖昧で、評判と噂だけが一人歩きしているように見受けられます。

しかし、いくら生産者とはいえ、一人のダージリンの茶園マネージャーさんの意見が絶対というわけではありません。チップが入っている方が、風味が良く、柔らかさがあるんだ、と主張する方もいると思います。

一番いいのは、一度、チップ入りの紅茶を用意して、

  A=チップス入り
 B=チップを取り除いた茶葉

の二種類を飲み比べてみることです。そうすれば自分の舌ではっきり確かめることができます。

ちなみに、僕も試してみたことがあります。結果としては、特に違いは感じられませんでした。

また気になるのは、シルバーチップ100%の「紅茶」です。希少性が強調されて値段が随分高いみたいですが、本当においしいのかなぁと。

値段に見合った味と香りなら何の問題もないけれど、もしも実質とは関係なく物珍しいだけで価格が吊り上げられた「バブル」だったら、とても残念だと思います。

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